コラム:次世代リーダー育成
次世代リーダーに求められる要件
記事作成日:2020年4月27日 (月)
執筆者:横田 恭一
これからのビジネスリーダー像を考えるうえで、大切にすべきキーワードは大きく2つあります。
「堅実性」
「変革性」
企業と取り巻く経営環境は、今後ますますスピード感をもって、ダイナミックに変わっていくことが予想されます。このような時代背景にあって「変革型」というリーダー像が注目されていますが、企業経営の実態は「今日明日の飯を食べる」ことも、大変な時代にあることを忘れてはなりません。
今、求められているリーダーとは、「今の事業で稼ぐ力」と「新しい事業を生み出し稼ぐ力」が高い次元でバランスよく内在している人材だと考えます。
では、2つの力が高い次元でバランスよく内在している人材とは、具体的にどのような能力をもっているのでしょうか。
次世代リーダーに求められる具体的な能力要件の枠組みをご紹介いたします。
1)手堅く稼ぐ能力~計画的に仕事を進める力
単純に言えば、「マネジメントサイクル(PDCA)をまわす力」です。
目標=結果にするためのシナリオを描き、仕事のプロセスで発生する様々な問題を解決しながら、目標達成の可能性を高めていくことができる能力です。
2)現状を変える能力~あるべき姿を描く力、問題や解決策を創造する力
一方で、「将来に備える能力」も必要です。
経営環境の変化を読みながら、新たな事業を創造し稼げる状態にする能力です。
意思決定力がカギを握ります。
3)人を動かす能力~リーダーシップ、コミュニケーション
どの時代においても常に一定レベルの能力が求められます。
特に新たな事業を創造するプロセスでは多くの困難にぶつかることが予想されます。困難を乗り越え、関係者に影響力を発揮しながら、「組織を牽引していくための能力」です。
4)経営知識~戦略、マーケティング、財務会計、組織/人材開発
既にある「経営のしくみ」を動かすのではなく、新たな「しくみ」を創造するためには「企業経営」に関する知識が必要不可欠です。
特に【ヒト(組織)】、【モノ(マーケティング)】、【カネ(財務会計)】および【経営資源の配分(戦略)】という4つのカテゴリーに関する知識は必要不可欠です。
この4つの能力の保有レベルを見極め、開発していくことが次世代リーダー育成のポイントです。
(1)「手堅く稼ぐ能力」
~計画的に仕事を進める力、問題を発見し解決する力
(2)「現状を変える能力」
~あるべき姿を描く力、問題や解決策を創造する力
(3)「人を動かす能力」
~リーダーシップ、コミュニケーション
(4)「経営知識」
~戦略、マーケティング、財務会計、組織/人材開発
「次世代リーダー育成プログラムの枠組み」
では、4つの能力要件をいかに見極め、開発していくか、次世代リーダー育成プログラムの枠組みをご紹介いたします。
前提となる考え方
4つの要件のうち、「手堅く稼ぐ能力」、「現状を変える能力」、「人を動かす能力」の3つは、皆さんお気づきのとおり「マネジメント能力」に分類される能力領域です。残りの1つ「経営知識」は、リーダーとして組織を変革し動かしていくために必要不可欠な知識スキルです。
「マネジメント能力」と「経営知識」は相互補完関係にあり、例えば、マネジメント能力が高いほど、経営知識を上手く活用し成果を出すことができると考えられます。
次世代リーダー育成プログラムの枠組み
1)マネジメント能力の見極め・リーダー候補者選抜の視点
人材アセスメントを実施し、マネジメント能力開発課題の設定やリーダー候補者選抜のデータとして活用する
2)マネジメント能力および経営知識(スキル)の開発の視点
集合研修やプロジェクトミーティングを実施し、中期経営計画策定や、新規事業立案プロセスを通じた能力開発を行う
次世代リーダー育成プログラムのコース概要
いくつかのパターンがありますが、今回は標準コースとして、人材アセスメントと新規事業立案研修を組み合わせたコースをご紹介します。
長期に渡るコースであり、テーマも複数あることから、全体を統括するコーディネーターが1名つき、研修間の個別ワークのフォローアップもしながら、全体をサポートします。
【1】キックオフ~プログラムの全体像共有、動機づけ
【2】マネジメント基礎~マネジメント能力開発課題の設定
【3】戦略・マーケティング(1)~環境分析と事業ドメイン、ビジネスアウトラインの策定
【4】戦略・マーケティング(2)~マーケティング戦略とオペレーション計画の立案
【5】財務~新規事業の収支シミュレーション
【6】中間報告会~担当役員への報告、意見交換、新規事業案の改善点抽出
【7】プレゼンテーション~プレゼンテーション資料の構成、話し方の改善課題設定
【8】成果発表会~担当役員への最終プレゼンテーション
【9】人材アセスメント~リーダー適性の見極めと、リーダー候補者の選抜
【10】昇進・昇格試験へ
※人材アセスメントは、選抜における判断材料の1つです。アセスメント結果のみで、選抜可否が決まるものではありません。
「次世代リーダー育成の事例」
実際に次世代リーダー育成に取り組んでいるA社の事例をご紹介いたします。
なお、事例企業の業種、規模は、機密保持の観点から、当方で修正を加えております。予めご了承下さい。
A社の事例
企業概要
従業員3,000名の製造業、創業30年です。
現在は、大手グループ企業の傘下で安定した業績を維持しています。
取り組み背景
経営トップの危機感は、この【安定した業績】そのものにありました。
創業時の成長を支えた先人達のDNAは薄れ、環境変化に適応し新しい事業を創造するという気概、能力を持った人材が少ない、という危機感です。これを、払拭するための取り組みです。
取り組み内容
1)リーダー適性の見極めと対象者の選抜
A社では、先ず管理職候補(資格等級)から、部門推薦でエントリー者を募ります。人材アセスメントにより、リーダー適性(マネジメント能力)を見極め次のステップ(定例研修)に進める候補者を30名から16名に絞り込みました。
もちろんアセスメント結果だけではなく、人事考課結果、本人との面談など、幾つかの視点から候補者を絞り込みました。
2)マネジメント能力および経営知識(スキル)の開発
選抜された16名に対し、約1年間・10回の研修を実施しました。大きな流れは、ご紹介した標準プログラムに近い内容です。テーマは「新規事業立案」です。
創業当時のDNAを取り戻すべく、新規事業立案に必要な知識、スキルを学びながら、実際にグループワークでA社で取り組むべき「新規事業」を考える、というプロセスです。別の視点から見れば、このプロセスは組織運営そのものです。
『リーダーシップを発揮し、グループを牽引しながら、成果(新規事業立案)を出す』というマネジメントの実践の場であり、マネジメント能力開発の場であるといえるでしょう。
取り組み特徴
A社取り組みの特徴の一つに「【DNA≒マインド】を大切にしている」点があります。
例えば、起業家精神とは何か?を考える場として、
- 外部講演会
- グループ会社役員の講話
- (日本コンサルタントグループでお付き合いのある)起業家の方々の講話などを聴講
「リーダーとは?」「起業家とは?」をメンバーで議論するプロセスを通じてマインドを喚起しています。
以上、A社の取り組み事例のご紹介でした。
細かな点まではご紹介できませんが、背景、枠組み、特徴など、皆さまの会社で取り入れられそうなヒントはあったのではないでしょうか。