千曲商工会議所様
「杏都(きょうと)」ブランドの新商品開発を通して
千曲の地域復興を図っていきたい
平成21年度にスタートした『杏都(きょうと)「信州さらしな」プロジェクト』の一環として、千曲商工会議所では従来の枠を超えたあんずの高付加価値商品をプロデュース。信州千曲の優良あんず産品に冠せられる「杏都」ブランドが今、大きな注目を集めています。
「杏都(きょうと)」プロジェクトについて
――今回のプロジェクトを立ち上げた経緯についてお聞かせください。
西澤様)千曲市は「一目十万本」とうたわれる、日本一のあんずの里です。元禄時代に伊予宇和島藩の豊姫が松代藩主にお輿入れの折にあんずの苗を持参したのが始まりです。その後、地域全体にあんずが広がり、現在では毎年4月初旬に開催される「あんず祭り」には30万人以上が集まるほど有名になりました。
このあんずを活用して地域振興に取り組んだのが、今回のプロジェクトです。今までも商工会議所はもちろん行政側でも、あんずに関してはさまざまな取り組みを進めてきました。今回は「地域資源∞全国展開プロジェクトとして、あんずを中心とした産業クラスターを構築し、今までの枠を超えたあんずの高付加価値商品の開発を目指しました。
――具体的にどのように展開されたのでしょう。
栗原様)プロジェクトは平成21年度からスタートしました。初年度は調査研究事業として、あんずに限定せず更級そばや棚田文化など地域資源を調査するとともに、地域ブランド構築の勉強会などを開催しました。ここでは、花や樹まですべてが利用可能なあんずの地域資源としての可能性の高さを再確認しました。
そして、この結果を受けて22年度は本体事業としてあんずに焦点を絞り、新商品の試作に取り組んだのです。ロールケーキやマカロンなどの洋菓子をはじめ、塩漬け、石鹸、あんず染、ネタにあんずを使った寿司など、多岐にわたる商品開発が行われました。また、この時に千曲の優秀なあんず商品の統一ブランドとなる「杏都(きょうと)」も設定しました。
その後、翌年は1年お休みし、24年度に本体事業2年目として再開。さらに具体的な商品化にアプローチし、昨年度は実際の杏都ブランド商品の販路開拓・テストマーケティングに取り組みました。おかげさまで杏都ブランド商品の認知度もかなり向上し、現在では「うちでも扱いたい」とさまざまな所からオファーをいただいています。
プロジェクト成功のポイント
――プロジェクト成功のポイントはどこにあったのでしょう。
栗原様)プロジェクトへの参加事業者が組織された時点で、「これはいける
と確信しました。そのきっかけとなったのは、統一ブランドデザインの開発ですね。実はそれまでは事業者さんのプロジェクトへの関心はあまり高くなく、正直に言えば「笛吹けど踊らず」という状況だったのです。それでプロジェクト自体も1年間の休止を余儀なくされました。ですが、このブランドマークがデザインされ、パンフレットが完成した時点で、がらりと雰囲気が変わりました。
西澤様)「杏都(きょうと)」という言葉は私が発案しました。「あんずのみやこ」と書いて、「きょうと」と読みます。これを商工会議所で商標登録しました。そして、あんずのイラストとロゴを「フランスあんずカラー」と黒をベースにモダンなデザインに仕上げ、容器やパッケージに統一ブランドデザインとして採用したのです。これが事業者さんに響いたようです。都会の大人の女性のライフスタイルに合わせたプレミアムなブランドイメージを狙ったのですが、これはビジネスになると考えられたのではないでしょうか。
――確かに今までにはない高級なイメージですね。
栗原様)はい、このデザインはとても話題になりました。日本商工会議所主催のFeel NIPPONに出店しましたが、とても評判が良かったですね。また、発表会での反響も大きく、テレビや雑誌など、多くのメディアに取り上げていただきました。
西澤様)「杏都」ブランドのコンセプトやデザインに力があり、それが求心力となって、事業者さんたちのやる気を引き出したのだと思います。このブランドの誕生を契機に、私たちが目指していたあんずのクラスター産業化が一気に動き始めたように感じています。
大きな効果を発揮した実践的な指導
――今回のプロジェクトでニッコンはどのような役割を果たしたのでしょう。
西澤様)私たちの考えや思いを実際に形にしてくださったのが、ニッコンさんです。私の「杏都」というアイデアをデザインに落とし込み、そこに込めた思いを各事業者さんに説明し、納得してもらうのに、とても力を貸していただきました。
ブランド価値を創造するには、ある一定の品質をクリアすることが必要です。その部分でもご担当の中山先生は妥協することなく、ぶれずに多くの事業者さんを指導していただきました。強い信念を感じましたし、とても頑固な人だなと思いました(笑)。
栗原様)経営コンサルタントというと、ともすれば机上の空論を述べる方が多いのですが、中山先生は実際の現場で成果を出されようとします。今までにこうしたコンサルタントの先生と仕事をしたことがなかったので、驚きました。商品開発のアイデアはもちろん、味づくりにも参画されますし、販路開拓に関しても、商工会議所の営業担当である田中君と一緒に営業に同行していただきました。
田中様)昨年度は志賀高原、白馬、軽井沢など観光地の有名ホテルや旅館などに、中山先生と一緒に営業させていただきました。
まずは長野県内でブランドの認知度を高め、そこから全国に展開していこうというマーケティング戦略です。ほとんど飛び込みの営業ですが、販売チャネルとなっていただく宿泊施設の方々からの反応はとてもよく、大きな手応えを感じました。また中山先生からは営業のアプローチ法なども含め、多くのことを学ばせていただきました。
「杏都(きょうと)」ブランドのさらなる展開へ向けて
――今後の杏都ブランドの展開について教えてください。
栗原様)今回のプロジェクト成功の要因のひとつに、女性の活躍があると思っています。新商品の開発の担い手の多くが、この地域の女性たちです。また、商工会議所のチームでも青木さんが商品開発のサポート役として重要な役割を果たしてくれました。今後は女性向けのスイーツの開発に力を入れて、「杏都」ブランドのさらなる進化を図っていきたいと思っています。
青木様)今回は多くの地域の女性のお仲間と商品開発に携わることができて、とても楽しかったです。私の家でつくっている味も新しい商品開発に生かすこともできました。今後も女性の視点を活かした商品を全国に発信していく役に立てればうれしいですね。
西澤様)私はこのプロジェクトは、まだ緒についたばかりだと思っています。実際、さまざまな課題があります。例えば、あんずの生産・供給体制も大きな問題のひとつです。あんず商品へのニーズはあっても、現時点では生産の面でそれに応えられる環境が整っていません。あんず農家は兼業が多く、後継者も育っていないのが現状です。キロ単価も安く、農業として成り立ちにくいんですね。また、千曲市の市民の皆さんもまだあんずへの認識が低いように思います。
こうした課題の解決に向けて、「杏都」ブランドがひとつの起爆剤になればと考えています。今後は行政などとの連携を深めながら、商業・観光だけではなく農業、さらには市民の皆さん全員の気持ちをひとつにして、あんずによる地域振興に取り組んでいきたいと思っています。
「杏都」プロジェクト・参加事業者様
横嶋 孝子様(株式会社横島物産)
商品開発への取り組み姿勢が変わりました。あんずの里に自社農園を所有し、多くのあんず商品を開発・販売しています。いわゆる6次産業ですが、商品開発力の 養成は大きな経営課題のひとつです。今回の「杏都」プロジェクトに参加させていただき、商品づくりやデザインに対する意識が変わりました。これからもいい 刺激を受けながら、「杏都」ブランドにふさわしい商品を開発していきたいと思います。
鈴木 土記様(大寿司)
話題の「杏寿司」で地域に貢献していきたい。以前から地元のあんずを寿司ネタに利用したいと試行錯誤を重ねていました。ちょうどそんな折に「杏都」ブランド の話を聞き、参加させてもらいました。私たちは、商品はつくれますが、流通や販売は不得手です。ですから、その面では中山先生には大いに助けていただきました。話題の「杏寿司」を通して地域に貢献できればと頑張っています。
古川 令子様(長坂製菓:杏花堂)
あんずの美味しさにこだわった商品を開発。商工会議所さんからの提案もあり、「あんず紅茶」を開発しました。あくまで手作りにこだわり、地元で収穫した天日干しあんずを紅茶に入れ込みました。製造に時間がかかるため月に100本ほどの限定販売ですが、多くのテレビでも取り上げていただき、とても好評です。これからもあんずの美味しさにこだわった商品を開発・提供していきたいと思っています。
- お話を伺った方:
- (上記写真右から)
専務理事 西澤 秀文 様
事務局長 栗原 達 様
振興課主査 青木 聖子 様
総務課主事 田中 憲 様 - 取材地:
- 千曲商工会議所
- 公開日:
- 2014年5月29日(名称等は、公開当時のものです)
事業情報
団体名 | 千曲商工会議所 |
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管轄地域 | 千曲市 |
所在地 | 〒387-0011 長野県千曲市杭瀬三丁目9番地 |
公式サイト | http://chikumacci.jp/ |
コンサルタントの声
専門分野
- 中堅食品工場の経営改善(工場の業務・設備改善、レイアウト変更、作業者のヒューマンエラー防止教育等)
- マーケティング(新商品開発・販路開拓営業支援)、幹部マネジメント研修等
平成21年度より約5年間プロジェクトの支援をしてきました。
「杏」は日本国内では長野県千曲市周辺と青森県でしか採れません。その杏の魅力を「都会の大人の女性」に届けるために、地元の女性事業者の方々と商品化に取組みました。
「あ んず、杏、アプリコット」・・・「杏」は捨てるところがありません。杏の実からのお菓子づくり、杏の樹からの「杏染め」、杏の種からは「杏仁豆腐」が作ら れ、残った種も「杏炭」になります。地域の潜在的資源を発掘し、商品化し販路開拓するバイタリティは千曲市の事業者の方々からエネルギーを頂きました。
現在、長野県内の主要観光地のトップ企業(ホテル・高級旅館)に販路を切り開くために、若い担当者と営業同行セールスを行っています。ぶつかれば活路は開けますね・・・杏の七不思議は健在です。