なんでも相談 【514号】

なんでも相談 【514号】

質問

 建設会社でもSDGsに取り組んでいる会社が増えているようですが、何かメリットがあるのでしょうか。

arrow-orange

回答

SDGs(持続可能な開発目標)は2015年9月に国連サミットで決められた国際社会の共通目標です。世間一般の認知度も上がってきており、新聞紙上やテレビ番組でも目にする機会が多くなっております。昨年、全国建設業協会で専門委員会が設置されたこともあり、地場の建設業界でもこの取り組みは進んできております。

さて、「何かメリットがあるか」というご質問ですが、SDGsへの取組は、メリットがあるかどうかではなく、企業市民としての責任において取り組むべき事柄だといえます。

とは言うものの、メリットは確かにあります。ただどちらかというと、取り組むメリットよりも取り組まないデメリットの方が今は大きいと感じます。主なメリットとして考えられるのは、SDGsに取り組むことによる企業のイメージアップ、業績や生産性の向上、人材の採用、社会的な取組を行うことによる従業員の働きがい向上(モチベーションアップ)などです。

取り組まないことによるデメリットはメリットの逆をお考えいただければ結構です。その中でも特に人材の採用面では取り組まないデメリットが大きいと思います。例えば同じ地域にA建設とB建設があり、仕事の内容も会社の規模もほぼ同じ場合、学生さんが志望先を決める最後の決め手は会社の社会貢献度(SDGsへの取組)という場合も多くあります(これをエシカル就活といいます)。現在では小学校から大学に至るすべての教育段階において「持続可能な社会の創り手の育成」が推進されており、新学習指導要領や第3期教育振興基本計画にも掲げられております。つまり、これから入社してくる若者たちにとっては、SDGsは当たり前の世界なのです。

今、建設業界でのSDGsの動きを見ていると、何となく1990年代後半のISOブームを思い起こさせます。今でこそISO認証取得は主観点、客観点に反映されていますが、ISOブームの初期の頃は、ISOが経審の加点になるのでは・・・、総合評価で加点されるらしい・・・、などという「噂」や「デマ」が広がり、ISOを取得しないと大変なことになるという不安感が多くの建設会社をISOに走らせました。ISOと経営を上手くリンクさせている企業はISOの認証取得は意味のある事ですが、認証取得が形だけの場合は、更新審査などが重荷になっている企業もあるかもしれません。メリット、デメリットという側面でこのSDGsを考えると、SDGsも全く同じことであり、将来的に地域のライバル企業がどの会社もSDGsに取り組めばそれ自体で差別化を図ることはできません。

したがって、SDGsを自社の経営強化に生かさない限り長期的なメリットは生み出せないのです。SDGsの17の目標の中には「7.エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」や「11.住み続けられるまちづくりを」という建設業に直接関係する目標も含まれています。17すべての目標について取り上げる必要はなく、まずは、メリット、デメリットを考えるのではなく、社員研修などで意識を啓発したり、現在進めている仕事をSDGsと結び付けて社内で議論を深めていくことから始めることをお勧めいたします。

(回答者)
日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 所長 長谷部 雅彦