なんでも相談 【501号】
質問(500号の質問と同じです)
私は、ある地場建設業の役員です。いま30代後半なのですが、昨年から父の経営する当社に入社しました。今後、5年以内に経営を継承する予定です。しかし、私は施工管理の技術的な経験がなく、営業畑でしたため、先般、民間の建築物件で大きな赤字があったときに、なぜこのようなことが発生し、どうすれば社内をうまくまとめて赤字工事の発生を防止できるの分かりませんでした。
そこで、教えていただきたいのは、経営者として『これから技術を覚えることはできるのか、それとも覚えなくてもよいのか』一般的なことでも結構ですのでご教示願います。
回答(500号からの続きです)
前回は『技術は覚えなくても経営はできます』、ご自身では持っていない「技術」を保持している部下を、任せることのできるマネージャー(工事部長)へ意識して育てていくことが必要であるというところまでご説明いたしました。
では、どうすれば優秀なマネージャーを育成できるのでしょうか。
それは『マネジメント機会の提供』と『統制するしくみ』の双方を経営者であるあなたが作りあげることです。繰り返しますが、「優秀な」とは、技術的見識だけではなく、経営的観点をもって経営者に報告・連絡・相談をし、マネジメントを部下に対して発揮できる側面を持っていなくてはいけません。
『マネジメント機会の提供』
これはズバリ、期待できる人材を若いうちに抜擢することです。いま多くの地場建設企業の工事部長は45~50歳の方が担っています。プレイヤーからマネージャーへの立場が変わると、意識も変わりますし、マネジメントスキルは身につくまで時間がかかるものですから、早期の抜擢人事をお勧めします。そして責任と権限の範囲を明文化することです。
『統制するしくみ』
しかし、抜擢したから、あとは育ってください、といってもなかなか思うようにいかないのが育成の難しいところです。そのため、監視するしくみをつくることが必要です。しくみとは、マネージャーが『日々意思決定していくことを監視するしくみ』と『会社の改善をしていく活動の予実を監視するしくみ』に凝縮されます。
日々意思決定していくことを監視するしくみとは、具体的には、見積提出金額の承認や購買の承認など会社の利益がちゃんと最大限になるようにしているか、金銭の意思決定プロセスを監視するものです。その他にもいわゆるISOに代表される、品質や安全に関するPDCAの承認も重要な点といえます。
会社を改善していく活動の予実を監視するしくみとは、具体的には経営計画書の領域です。すなわち、原価率をどうやって下げるか、工事成績の獲得をどのように組織ぐるみでしていくか、ICT測量機器をどうやって本格採用していくか、若手をいつまでに代理人に育て上げるかなど、組織課題に対して中長期に具体策を練り、推進をしているかを監視するものです。
つまり経営者とは、監視するしくみをつくり、その中で、意識してじっくり有望な部下を育成し、優秀なマネージャーへと導き、そのマネージャーがちゃんと集団を牽引しているかを“監視”するだけでよいのです。そして、経営者、マネージャー、プレイヤーと皆で、様々な問題を解決していき、その知見を蓄積していける組織が成長する組織であるといえます。
千里の道も一歩から、まずは踏み出す仕掛けづくりを挑戦いただければと思います。
(回答者)日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 経営コンサルタント 丸谷 正