なんでも相談 【497号】
質問
回答
今後の先行きが不透明のため、判断が難しいですが、採用を継続すべきと考えます。
理由は、建設業界で大きな問題である若手人材不足への対策は急務であり、今、採用を見送ることは、10年後、20年後によりひっ迫した人員不足を招きかねないためです。
非常事態宣言は解除されたものの、新型コロナウィルス感染症収束の目途は立っておらず、感染拡大の第2波、第3波のリスクも懸念されています。また、経済への影響が本格的に顕在化するのはこれからです。貴社におかれましては、工事中断も発生しているとのことで、収入に対する打撃もあろうかと存じます。
このような状況を受け、建設業のみならず、多くの企業が採用活動に影響を受けています。5月15日に東京商工会議所が発表した「【緊急調査】2021年卒採用活動における中小企業の動向アンケート」の調査結果による影響の概要を下記のようにまとめてみました。
- 採用活動に影響が生じた企業は8%と回答。そのうち51.8%は中断・延期し、46.0%は継続して採用していると回答。
- 採用人数への影響については、2%が当初の計画通り採用する予定と回答。当初計画より抑えて採用は10.8%、現時点では未定が21.5%。
- Web採用システムについては、導入済みが7%、導入検討が35.1%と回答。
多くの企業で採用活動の中断・延期が見られ、影響は小さくありません。しかしながら、なんとか当初の予定通り新卒社員を確保しようと、各社採用活動を進めています。弊社が行った調査でも採用活動を継続するという回答が97%を占めています。
一方、リクルートキャリア株式会社の調べでは、5月1日時点の内定率は45.7%(昨年は51.4%)であり、多少の影響はあったようですが、大学生の就職活動は着実に進んでいるようです。
現在の建設業界全体の問題である高齢化、裏を返すと若手社員の人材不足の問題は、リーマンショック前後の採用不足が根本的な原因と言われています。リーマンショック前後の2004年から2012年ごろまで、建設業界の新卒社員は30,000人前後を低く推移していました。1999年には、約48,000人だったので、毎年20,000人近く新卒が減っていたことになります。現在は、少子化の影響を受けながらも、若手不足を解消すべく約41,000人まで増加しています。この結果、現在、多くの企業が30代の若手~中堅社員不足を問題として抱えており、10年後、20年後には現場代理人不足問題となって、中長期的な経営に影を落としています。そのため、新卒・若手採用と育成強化は、建設業界では各社共通の経営課題です。今、ここで、新卒採用を抑制することは10年後、20年後の現場代理人不足問題をより悪化させかねません。
今後、貴社がとるべき方策として、新卒採用活動を再開するため、Webによる採用環境を早急に整え、Web説明会やWeb面接をスタートすることをアドバイスいたします。すでに学生側は、90%以上がWeb面接の受験経験があるようです。
Web面接では、自社にあった人材を選別できるか、人間性やマナー、振る舞いや雰囲気などをWeb面接で読み取ることができるか、などの点に不安を感じることも多いことと拝察いたします。これらの不安を払拭するには、最終面接はリアルな面談にするなど運用上の工夫を行いながら、最終的には実践により、自社なりの経験・ノウハウを蓄積していくほかありません。また、Web面接をサポートするサービスを展開している人材開発企業やIT企業もありますので、活用を検討されてみてもよいかと存じます。
一方で、大学生側も会話や視線などのコミュニケーション、通信環境など不安感が多いとのことです。その点については、貴社の人材採用者の方が留意して、対応いただきたく存じます。
古くより「人は城、人は石垣、人は堀」と言いますように、人材はなにものにも代えがたい資源です。また、採用を削減した他業種や大手から優秀な人材が流れてくる可能性もあります。業況を考慮されながらも、この機をチャンスとして捉え、Web面接・説明会などを導入し、継続して新卒採用に取り組まれることを提言いたします。
(回答者)日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 経営コンサルタント 齋藤 昭彦