なんでも相談 【518号】

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質問

今年は採用が順調で新入社員6名が入社し、全員現場の配属にしました。せっかくの人材ですので、手厚く育てていこうというのが当社社長の考えですが、これまでは現場でのOJTが中心でしたので、手厚くと言われても何をどうしていいのかよく分かりません。どのようにするのがいいかアドバイスいただければ助かります。また他社の事例なども教えてください。

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回答

現場技術者の育成は非常に難しい問題ですね。業界問わず、不変的な結論から申し上げると、OJTでの指導役である上司先輩の教え方次第と言えます。もちろん、教わる側の部下後輩の学ぶ力や姿勢もあるのでしょうが、マネジメントとは、その問題の解決を立場上優位者に求めます。

もちろん、OJT以外の方法で集合研修(OFF-JTといいます)やマニュアルという教育方法もありますが、建設業の現場代理人とは個人のスキルが重要視される業務、いわゆる個人能力主義型業務といわれ、OJTによる上司先輩からのコツや着眼点の伝承が必要な職業といえます。つまり個人能力主義型業務とは、個人による意思決定スキルや創意工夫スキルが求められる職業といえ、そのスキルは本やインターネットでは得ることはできず、現場で上司先輩から伝承されていかざるを得ないといえます。

そこでOJT指導者側の教え方を成功させるコツとは以下の3つです

①計画的であるか

何年生までに現場代理人にするかをまず定め、さらに中間のステップとして施工図や工程表を何年生までに身に着けさせるかなど計画的に進めることができているか、です。事例としては、何年生までにどのような能力を段階的に備えるかを表したスキルマップを整備される建設企業が多くあります。スキルマップはいまから15年ほど前、団塊世代の大量定年時代を見据え、技術の伝承策としてゼネコンを中心につくられてきた手法です。例えば大規模現場の現場代理人を15年としたら、施工図作成を5年生から着手、全体工程作成を8年生など業務内容と年次を明確にするものです。

②業務の機会を提供できているか

①とも連動しますが、あまり過度な難易度の業務や、反面、容易過ぎる単調な仕事を与えないようにし、少し手を伸ばせば届くような難易度の業務を与え続けることが、成長のスピードアップと指導対象者のモチベーション向上に繋がります。モチベーション向上とは、仕事の面白さを感じることであり、これは時代を問わず、人間とは普遍的に、自身で自由に意思決定したり、工夫したりする裁量権を与えられるときが一番面白いと感じます。まして、それが会社から評価されたり、さらにはスキルが身につき、国家資格も取得などして、この仕事を生涯の仕事としていけるなと思うようになれば最もモチベーションが高い状態となったいえます。つまり、詰め込み型の教育よりも、面白さを感じさせ自発性を高めることが大事であり、上司先輩が、自分でしたほうが速くて正確だと仕事を抱え込まず、いかに任せるかといえます。

③コツや着眼点を伝えているか

現場でのどうすれば上手くいくのか、失敗しないように着目しておくべきポイントはどこなのか。本やインターネットに載っていない、活きた知恵は沢山、上司先輩の中にあります。「生コンの打設順序はなぜ、この順番で打設しようと先輩は思ったのだろう」「工事車両の出入りはなぜ、このルートで入構させようと先輩は思ったのだろう」「工程表の作業順序をなぜ先輩はこの順番でしようと思ったのだろう」このような知恵に万能の法則はなく、現場で都度、状況にあわせて上司先輩は考えているものです。この考えたことを、是非、指導対象者の部下後輩に伝えましょう。それはほんのひとこと、例えば工程表を部下後輩に渡すときに「この工程で業者さんと調整しといて」と業務指示をするだけではなく「この工程でここの部分が今回の工事で重要な検討と思って、作業の優先順位をつけたんだよね」など言ってあげましょう。

つまり、最後はコミュニケーションも大事ということです。これは、上司先輩側も部下後輩が質問しやすい雰囲気を普段からつくるとともに、極力上司先輩側から能動的な声掛けをすることが大切です。但し、このような生きた知恵は口頭で伝承されますから、指導対象者には必ずメモをその場でさせるなど規律とマナーもしっかりと教えなくてはいけません。

ご参考いただいて、貴社のOJTを手厚く、面白さを感じることができる場にしてください。

(回答者)
日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 経営コンサルタント 丸谷 正