なんでも相談 【517号】

なんでも相談 【517号】

質問

当社も働き方改革の一環で業務改善を社内で進めているところですが、一部(高齢)の社員からは「これまでの仕事のやり方を変える必要はないのではないか」という声があります。
これらベテラン社員に対してどのように説得していけばよいでしょうか。また、若手の社員には少なからず戸惑いがあるようです。彼らをどのように方向づけ、社内全体をまとめていけばいいでしょうか。

 

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回答

「今までの仕事のやり方を変える」という行為は、誰しも漠然とした不安にとらわれるものです。しかし、2024年4月1日からは、建設業にも「働き方改革関連法」の時間外労働の上限規制が適用されるため、目を背けてはいけない問題です。

一部(高齢)の社員に理解いただくための重要な観点を2つご紹介します。1つ目は、現状とリスクを認識いただくことです。現状の時間外労働の実績と上限規制を比較して、いかに法令違反の可能性があるかを明確に伝える必要があります。36協定を結んでいても、①年720時間、②複数月平均80時間、③月100時間未満(②③は休日労働を含む)の時間外労働上限に対し、実態がどうであるかを明確にし、法令違反によるリスクを明確に伝えましょう。リスクは、違反者1名あたり30万円の罰金が科されるという具体的な処分に加え、社名公表により会社のイメージがダウンし、受注や採用にも重大な影響を与えます。過去、時間外労働に関する法令違反により、企業および管理監督者が行政処分や公共工事の指名停止を受けた事例もあります。自身の人生や生活にも関わる課題だということを認識いただきましょう。

2つ目の重要な観点は、ベテラン社員の培った技術やノウハウを活用するという観点で、働き方改革に参画させることです。ベテラン社員には、長年培った仕事をうまく進めるコツや勘所、協力会社との人脈など様々な知恵が詰まっています。長年勤めあげた会社に、何か自分の勤めた証を残したいというベテラン社員の方は、少なくないのではないでしょうか。働き方改革の取り組みのなかで、例えば施工管理のポイントをまとめるマニュアルづくりや若手社員の指導などに、ベテラン社員の方を参画させ、自分たちの知恵を伝えていく取り組みをしながら、自分たちが率先して「働き方改革」に取り組む意識を持つよう方向づけていくことが重要です。

一方で、若手社員には積極的に工夫をさせ、改善のアイデアを創出・具体化させていくことが必要です。そのために、若手主体の業務改善プロジェクトなどを運営させるケースや業務改善アイデアコンテストなどを実施しているケースもあります。このようなイベント型の取り組みまでいかずとも、若手に積極的に意見を出させるしくみづくりが必要です。特に若手社員は、ITリテラシーが高いケースが多く、業務改善におけるIT活用の実践においては推進役として活躍が期待できます。評価制度や等級制度などとも組み合わせ、業務における創意工夫や業務改善は、各自の役割であり、それに取り組むことで評価されるという動機づけを与えることも重要です。また、管理職の方は部下・後輩と積極的にコミュニケーションをとり、彼らの声を聴く努力をすること、チャレンジを推奨することが重要です。

以上は各年齢層に対する具体的な取り組みであり、社内全体をまとめていくためには、まず経営層からの方向や取り組み、目標について明確化することが第一条件です。前述したような実態を伝えるとともに、会社としてどのような「あるべき姿」がなければ、会社としての方向性が定まりません。その上で、上記のような具体的な取り組みを組み合わせ、働き方改革と若手・ベテランそれぞれの得意分野を活かしながら、全社的に業務改善に取り組むことが重要です。業界全体の人手不足もあり、簡単な問題ではありませんが、腰を据えて着実に取り組んでいかなければなりません。

私が以前、勤務していた内装工事会社では、部門・職種横断型の業務改善アイデアコンテストを毎年開催していました。営業兼現場管理担当者、設計担当者、事務担当者、総務担当者がミックスされたチームで約10か月かけて業務の問題点に対する改善提案を検討し、提案するという取り組みです。業務フローの電子化など実用化に至った事例もあれば、ボツになってしまったアイデアもありましたが、社員全員が自社の問題や課題に向き合うということは参加意識を持つためには重要なことです。また、様々な職種・拠点の社員同士の交流により、社内のコミュニケーションが活性化するというような副次的効果もあり、忙しい中でもやり甲斐のあった企画だったと記憶しています。

 

(回答者)
日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 経営コンサルタント 齋藤 昭彦