建設経営への道標【488号】

建設経営への道標【488号】

2018年9月12日

原価管理に関するルール・基準の明確化 第5回

建設業において原価管理手法として適用されている実行予算制度・管理が形骸化しているということは大きな問題であると考えます。その原因として、①原価管理における役割分担が曖昧である。②工事担当者の原価意識が薄い。③原価管理に関する目標設定が曖昧である。④実行予算作成のタイミングが遅い。⑤実行予算作成に関するルール・基準が曖昧である。といったことが挙げられます。

この形骸化している現象を打破しない限り、原価管理の本質を見出すことは難しいでしょう。建設業が、本質的に考え、実行しなければならない原価管理のあり方を考えてみます。

実行予算の早期作成

実行予算の目的は、工事着工前にその工事が完丁した時点の利益を予測し、会社が期待する利益に近づけるというところにあるわけですが、実際にはこの予算作成のタイミングが遅すぎることが多く、原価管理への貢献が弱くなっている感じを受けます。

この問題を解決するためには、積算段階で「見積書」を作成すると同時に「標準予算書」を作成し、これを1次予算として位置づけ、受注が確定した時点ではこの1次予算を見直し、工事担当者が改めて作成する実行予算(2次予算となる)の基準値にするという仕組みをつくることが肝要かと思います。

こうすることにより、工事着工前に[実行予算に相当する予算]が用意できることになり、この実行予算により想定される粗利益を検証することができ、粗利益を向上させるための対策が早めに立てられるようにもなります。

これらの仕組みをつくるときに大事なことは、積算段階でより精度の高い標準予算を作成するために、標準単価及び標準歩掛を整備することです。

実行予算の精度向上

工事担当者によりバラつきが出る実行予算

実行予算と実績を対比した時に、その実績が実行予算を下回ったからといって、工事担当者の努力が大きかったと単純に評価できないことがあります。それは当初作成された実行予算が厳しさに欠ける甘い数値であったり、実行予算の根拠が極めて曖昧である場合が多いからです。

経営者・管理者は「工事担当者を信じている」という言葉をよく耳にしますが、実行予算の作り方やその精度を見てみると、必ずしも信頼に足りうる基準やルールが整備されていないように思われます。例えば同一物件の実行予算において、工事担当者の考え方とか現場経験年数の違いによってその金額にバラつきが発生するわけですが、そのバラつきの数値の大きさに驚かされ、どの予算値がより適正なのかを判断することができないケースが非常に多いような気がします。

規模が大きい会社ほど工事担当者の経験のバラつきが大きく、それが予算数値のバラつきに反映されます。筆者の体験ではその差が最も大きかった例としては、同じ会社において300万円以上の差があったことがあります。

必要とされる標準化した歩掛

バラつきの大きいのに驚いてしまうのが実感で、その金額差が生じ る原因として共通していることは、材料・労務などに関する歩掛が、会社として整備・標準化されておらず、工事担当者の経験に委ねられているところにあると思われます。

このよ うに材料・労務などに関する標準歩掛を設定 しておか ないと、予算金額にバラつきが生 じ、予算金額が適正であるか否かを判断する基準も考えられず、ややもすると、予算の精度が極めて甘くなってしまっているという 可能性が高まります。

さらにコストダウンまで考える段階では、そのコストダウンの目標さえ非常に曖昧にしてしまう危険性があるように思われます。したがって、結論として言えることは、手間と時間がかかることではありますが、元請企業・専門工事業者を問わず、現場に携わる担当者が毎日の作業実績を取りながら、工種別によ り客観性のある歩掛(特に労務歩掛)を蓄積し、その精度を検証しながら標準化する必要があります。

(おわり)

 

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