建設経営への道標【482号】
2018年5月9日
原価管理に関するルール・基準の明確化 第1回
建設業において原価管理手法として適用されている実行予算制度・管理が形骸化しているということは大きな問題であると考えます。
その原因として、①原価管理における役割分担が曖昧である。②工事担当者の原価意識が薄い。③原価管理に関する目標設定が曖昧である。④実行予算作成のタイミングが遅い。⑤実行予算作成に関するルール・基準が曖昧である。といったことが挙げられます。
この形骸化している現象を打破しない限り、原価管理の本質を見出すことは難しいでしょう。建設業が、本質的に考え、実行しなければならない原価管理のあり方を考えてみます。
原価管理における役割分担の明確化
原価管理は、元請企業としての取組みだけでは決してその成果が上がることはなく、元請企業と協力会社との一体感をもった取組みを行なって、初めて原価管理の成果が上がってくるわけです。しかし、この両者の役割及びその責任分担が曖昧であると感じられます。
まず実行予算への対応ですが、元請企業においては必ずしも充分ではありませんが、一応「実行予算書」を作成しています。
ところが、協力会社(専門工事業者)においては「実行予算書」を作成している企業が少なく、「見積書」さえ詳細に作成していないところも見受けられます。この「見積書」と「実行予算書」は表裏一体の関係にあり、競争力のある見積もり金額を算出するためには、その根拠となる実行予算を明確にするということはごく当り前のことですが、残念ながらこのことがまだ当り前のことになっていないのが現状で、そのために、このような形骸化の実態を生んでいる原因になっていると思われます。
これからは規模の小さい専門工事業者であっても、実行予算を作成するように元請企業の工事担当者が指導し、企業によっては予算作成技術の習得まで支援することも考えられます。さらにコストダウンヘの取組みにおいても、元請企業と協力会社の協調体制が絶対条件になりますが、ここでも両者の役割、責任分担が曖昧になっているのが現状です。
このコストダウンの対象になる要素として「単価」と「数量」の両方が考えられますが、「単価」におけるコストダウンについては、元請企業においてはメリットがあっても、協力会社においてはその請負金額(元請からみた発注金額)が圧縮されます。よって、この両者の利害は一致しないわけですから、そこに協調関係を期待することは厳しくなります。
したがって、両者の協調関係を維持しながらお互いの利害を一致するためには、もう1つのコストダウン要素である「数量」を対象にした取組みを具体化することが必要になります。「数量」を対象にしてコストを下げるということは、技能工を中心にして生産性を上げるということであり、言い換えれば、技能工に関する歩掛を改善するということになります。
すなわち、技能工の生産性(歩掛)を向上させることにより、建設コストを縮減するということがより具体化するわけですから、それぞれの技能工に対して生産性向上に関する目標を設定しながら、元請企業の工事担当者が協力会社を指導・育成するということが非常に重要なテーマとなってきます。
(つづく)
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