コストマネジメントを支える機能について

建設経営への道標【459号】

2017年5月17日

コストマネジメントを支える機能について=第3回=

建設業において原価を管理し、コストダウンを具体的かつ確実に実践することによって、粗利益(または付加価値)を確保・創出する仕組みを、「コストマネジメントシステム」と定義づけしましょう。このコストマネジメントシステムには、基本的に次の4つの機能(役割)が必要とされています。

  1.  積算機能
  2.  原価管理機能
  3.  工務機能
  4.  購買機能

このそれぞれの機能の内容については、土木・建築・設備工事業といった業種、施工高を中心とした企業規模、その企業における組織体制、更にそれぞれの企業特性(地域、元請・下請の比率など)によって変わってきます。それぞれの機能について、標準的なものとして1つのビジネスモデルを想定することができますが、建設業としての基本的役割、機能定義、あるべき姿について、ここでは述べてみたいと思います。今回は、「工務機能」についてです。

3-1「工務機能」の役割

「工務機能」が基本的に持つべき役割としては、次のようなものが考えられます。

  • 施工管理・現場経営においてより成果を剔出するために技術者の育成 を行ない、適正配員や教育的な観点での人選を可能とするスキル管理 を行なう。
  • コストダウン活動に必要な社内データ(標準単価・標準歩掛・VE事例など)を収集・検証することによって、全社的な共有化を推進する。
  • 工事一覧などによって個別現場の利益達成状況などを集計・分析し、部門別、工事種類別などの原価の総括を行なう。
  • 部門(土木・建築・設備など)の利益管理により部門目標の進捗状況を分析し、経営戦略(受注戦略・原価統制・コストダウン目標など)の据正に関連するデータを作成する。
  • 現場のコストダウン支援一顧客品質確保・業務改善・データ収集・教育育成に貢献する部門内の会議体(施工検討会一反省会など)を支援・充実させる。

3-2「工務機能」の機能定義とあるべき姿

工務機能は、「施工管理機能」が中心となります。施工管理機能は、施工管理基準を設定する機能、工程表を作成する機能、工程計画を管理する機能、施工品質計画書に基づいて施工図を作成する機能、工程内検査を行なう機能、安全衛生管理を行なう機能、作業環境を整備する機能等のことです。

工務機能として考えられる細かい機能と、それぞれの機能に関する機能定義(仕事の内容)及びあるべき姿(それぞれの仕事における最も望ましい姿)の1例について、「施工準備機能」を取り上げたいと思います。

機能 機能定義 あるべき姿
中項目 小項目
施工管理機能 施工管理基準設定機能
  1. 品質・工程・安全に関して管理基準を設定する機能
  1. ISOに織り込まれている品質、工程、安全に関する管理基準を確実に実行させるという工事担当者としての責任追求を徹底することにより、全体の管理レベルが向上している。
工程表作成機能
  1. 発注者に提出する全体工程表を作成する機能
  2. 工期短縮を想定した工程表を作成する機能
  3. 標準工程表を根拠にした工程表を作成する機能
  4. 工種単位の人工数を考慮した工程表を作成
  1. 発注者が要望する納期を満足させるより適正な全体工程表が作成されている。
  2. 標準歩掛を根拠にした主要な工種における標準工程を参考にして、コストダウンを具体化する工期の短縮を目的とした工程表が作成されている。
  3. 主要な工程において標準歩掛を根拠にした人工数を想定した工程表が作成されている。
工程管理機能
  1. 工程計画と実績を対比する機能
  2. 日数及び人工数に対して計画と実績を対比する機能
  3. 標準工程と実績工程を対比する機能
  1. 日数及び人工数に基づく工程計画と実績の対比がなされている。
  2. 標準工程と実績工程を対比することにより標準工程の精度が逐次改善されている。
施工図作成機能
  1. 『施工品質計画書』に基づいて施工図を作成する機能
  2. 建物用途(RC構造物など)に応じて、施工図作成を業者に依頼する機能
  3. CADに基づいて施工図を作成する機能
  1. 施工図の作成に関する要領書が整備され、それに基づいて業者に的確な指示をするための工事担当者の教育が充分になされ、精度の高い施工がなされている。
  2. 『施工品質計画書』に基づいて、納まり具合、コストダウンなどを考慮しながらタイムリーかつ正確に施工図が作成されている。
品質管理機能
  1. 『施工品質計画書』を作成一修正する機能
  2. それぞれの計画と実績を対比する機能
  3. 品質向上を目的とした部会を実施する機能
  1. ISOに準拠して『施工品質計画書』などがタイムリーかつ正確に作成されている。
  2. 品質、性能.機能に関する基準が整備され、全体としての品質の維持向上が図られている。
  3. 品質計画書と実績の対比をタイムリーに実施するとともに工事担当者と内部監査長の役割分担が明確にされ、品質管理の向上が継続的になされている。
工程内検査機能
  1. 品質・性能一機能に関する施工状況を検査する機能
  2. 工程内検査の結果を記録する機能
  1. 品質、性能、機能などの検査に関するツールを活用することにより.それぞれの適正度が検証・確保されている。
  2. 工程内検査の結果を『安全日誌(工程内検査記録欄)』に記入すると同時に、それぞれのデータをパソコンに記録し、分析・検証が的確になされている。
安全衛生管理機能
  1. 安全衛生に関する施工計画書を作成する機能
  2. 安全衛生に関する書類を作成する機能
  3. 安全パトロールを実施する機能
  4. KY活動を指示する機能
  5. 安全衛生に関する指示を出す機能
  6. 災害防止協議会の編成とその活動を実施する機能
  1. 安全衛生に関するルール、書類作成が遵守され、安全意識の向上が継続的に図られている。
  2. 安全に関するパトロール及びKY活動をより徹底することにより、事故ゼロの状態が持続されている。
  3. 安全衛生に関する指導・教育が計画的になされるとともに、業者の責任に帰する事故などに対してはペナルティを実施し、全体の安全及び衛生に関する精度が向上している。
作業環境整備機能
  1. 安衛法に準拠して作業環境を整備する機能
  2. 作業環境整備のために業者の指導・教育をする機能
  1. 安衛法に基づいて、より安全衛生を確保した作業環境を整備するためのマニュアルを整備し、遵守されている。

 (つづく)

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