なんでも相談 【509号】

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質問

 私は、完工高50億円ほどの地場ゼネコン2代目経営者です。
先日、経営会議の際に、後継者として予定している長男(30代後半、現在は常務)が、「今後はESGに力を入れるべきだ」と言っていました。
青年会議所で講演があり、仲間の若手経営者、後継者たちも力を入れていると言っているそうです。
当社もCSR活動として、週に1度会社周辺の清掃活動や、地域の中学校の職場体験の受け入れなどを実施していますが、どのような違いがあるのでしょうか。
詳しいことを教えてください。

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回答

ESGとは、環境の頭文字のE(Environment)、社会の頭文字のS(Society)、企業統治・経営の頭文字のG(Governance)を組み合わせた造語です。企業が事業において、業績だけでなく、環境・社会・経営それぞれの面で成功していくべきだという考え方です。
一方、CSRは企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)であり、似た表現ではありますが、微妙な違いがあります。どちらかというと、ESGの方がより具体的な内容になっています。
Eは環境面であり、事業活動を通じて、3R(削減Reduce・再利用Reuse・リサイクルRecycle)や環境負荷低減に取り組んでいるかということです。
Sは社会面であり、社員、お客様、協力会社、地域社会と良好な関係性を構築でき、何らかの「成果」を創出しているかということです。
Gは企業経営・統治面であり、企業活動が法令や適切な経営プロセスにおいて行われ、制度や仕組みがしっかりとしているかどうかということです。

ここで、重要なのは環境面・社会面ともに、G(企業経営・統治)に基づいて行われるべきであるということです。例えば、利益が出たので、植林に寄付をするという行為は、環境貢献活動ですが、本質的な事業活動を通じた環境貢献ではありません。一方で、お客様に新たな提案をする際、たとえば地域の旅館の新築提案をする際に、地元の間伐材を使った地元の風土・文化を体感できるスペースを提案するなどは、事業活動を通じた環境貢献、地域の文化に対する貢献活動であり、ESGと言えようかと存じます。

ESGに取り組むメリットは、環境面・社会面・事業面以外にも大いにあります。市場は脱炭素や環境性、社会貢献などに重点を置き、コンペや提案などでも重要度が高まる傾向にあります。また、採用面でも将来の地域環境や社会に取り組む、しくみのしっかりとした企業という印象を就活生に対しPRできるでしょう。

さて、ここまでESGとは概要やメリットなどについて説明してきました。しかし、私はESGもCSRの違いについては、そこまで重要ではないと考えています。どちらにしても、肝要なのはどれだけ本業に組み込めているかだと考えます。収益活動と離れた活動では、ESGもCSRも付随的な要素のため、面倒になり、いずれ風化していきます。一方で、事業活動に環境面や社会面を組み込んでいくことで、自然に社員が業務を行っている中で、環境貢献や、社会貢献を果たすことができます。それをどのように自社のビジネスの中に入れ込み、「しくみ化」していくかが重要なのです。

筆者は前職で、ある地方自治体のCSR企業認証制度の運営に関与していました。その自治体では認証企業を増やすことが目的となり、企業側も会社の信用面や行政との付き合いで取得している企業が少なくありませんでした。しかし、もちろん、CSRに真摯に取り組まれ、「本業CSR」を実現している企業もありました。特にユニークな企業では、CSR会計として、本業におけるCSR活動がどれだけ業績・利益貢献したかを明確化していました。その企業は、40歳代前半の2代目社長率いる精密加工業でしたが、超精密加工技術を活かして下請けから脱却し、医療や福祉分野に貢献する製品開発を行っていました。

ぜひ、ご子息がどのようにESGに取り組みたいか、お話を聞いてみてください。その内容が、収益活動と離れていたならば、ぜひ本業においてどのようにESGを実現していくか、考えを深めてあげてください。また、いいアイデアであれば、会社のビジネスにおいて「しくみ」としてどのように取り組むか、ぜひ具体的に準備を進めてください。

(回答者)日本コンサルタントグループ 建設産業研究所 経営コンサルタント 齋藤 昭彦