ソリューション営業とは ~営業スタイルの分類と求められる4つの要素~
記事作成日:2017年5月12日(金)
執筆者:原田 明人
ソリューション営業の定義・分類
情報産業研究所では、ソリューション営業の研修をIT業界の企業を中心として、IT業界以外の多くの企業に実施しております。
研修の冒頭では、【ソリューション営業の定義】について話をします。そもそもソリューション(課題解決)という考え方はIT業界で注目され、ITが経営課題に大きな影響を及ぼす今日では、当り前に使われるキーワードになりました。
しかし、IT業界では当たり前に使われる言葉であっても、他の業界に行くと「ソリューションって何?」「ソリューションは知っているけど商品・サービスと何が違うの?」といった具合に、ソリューションという言葉はあまり浸透していません。
ソリューションとは、広い意味で、『お客様の課題を解決する活動』と考え、ソリューションに営業をつけて、『お客様の課題を解決する営業活動』と定義します。
例として、ベッドを売る営業を考えてみてください。ベッドを販売する営業担当者は、お客様にベッドを販売する時にどのように考えるでしょうか。
お客様が眠りが浅く、眠りによって疲れが取れない方であったとしましょう。その場合、ベッドがお客様にとってどのような効用があるかを考え、お客様の抱える悩みを解決するための機能と考えます。お客様に、ベッドの機能、つまり、快適な眠りを提供することによって、深い眠りと眠りによる疲れを癒すコトを実現させるのです。
お客様は営業担当者からベッドを買ったのではなく、お客様の解決したかった問題、つまり「浅い眠りと、眠りによる疲れを癒す解決策」を買ったと思うでしょう。ソリューション営業は、『お客様の抱える課題を、商品を通じて解決すること』になります。
次に、ソリューション営業の定義をより良く理解するために、ソリューション営業以外の営業スタイルを考えてみましょう。営業スタイルには、「モノを売る、コトを売る」の軸があり、さらに、「攻める、受ける」の軸があります。この2つの軸を掛け合わせると、下記の4つのスタイルに分類されます。
(1)御用聞き営業
(2)提案営業
(3)コンサルティング営業
(4)ソリューション営業
(1)の御用聞き営業は、モノ売りで受ける営業スタイルです。
(2)の提案営業は、モノ売りで攻める営業スタイルです。
(3)のコンサルティング営業は、コト売りで受ける営業スタイルです。
(4)のソリューション営業は、コト売りで責める営業スタイルです。
これらの分類によって、ソリューション営業のスタイルの特徴が分るのです。
「営業スタイルの分類」
それぞれのタイプについて、私の過去の経験から、事例を挙げて特徴を解説したいと思います。
(1)御用聞き営業
御用聞き営業の事例では「日用品を売る営業」を想像してみてください。
営業担当者は日用品(例えば文具)を企業に持ち込み、お客様に商品を見せて「どの商品に興味がありますか?」と尋ねます。
お客様は自身が必要と思えば購入し、必要でないと思えば購入はしません。営業担当者もお客様が必要でないと言えば購買をあきらめて帰ることになります。営業担当者が売上を伸ばすためには、あらかじめ魅力的な商品を多く用意し、多くのお客様にアプローチすることが必要となります。
こうしたタイプのセールスは、Webによる流通ルートの確立によって、付加価値を奪われているのが現況です。例えば、アスクルの例が典型的でしょう。アスクルは商品領域を広げ、多くのお客様に、Webを使ってリーチし、売上を伸ばしています。
(2)提案営業
提案営業の事例では「訪問販売の営業」を想像してみてください。
営業担当者は訪問販売(例えば新聞)で商品を売るために、商品の紹介、販促物の提供、値下げ、抱き合わせなどを駆使します。
ポイントは営業担当者の売りたい商品を売ることに主眼が置かれていて、商品(或いは周辺)の魅力を訴求することを重視している点です。お客様は、営業担当者が提案する商品の魅力に、自分のニーズやベネフィットが合えば購入することになります。
(3)コンサルティング営業
コンサルティング営業の事例では「法律事務所」を想像してみてください。
法律事務所に所属する弁護士の方々は、お客様(クライアント)の困りごとの相談を受けて、解決に導くことで報酬を得ています。つまり、問題を抱えているお客様自身が法律事務所を訪れて、問題が解決するコトに対価を支払うことになります。
コンサルティング営業のポイントは、過去の実績や知名度、魅力度に加え、問題解決に導く技術などが評価されて、お客様を多く獲得することになります。
(4)ソリューション営業
ソリューション営業の事例は「IT企業の営業担当者」を想像してみてください。
IT企業の営業担当者は、お客様の経営の問題や業務の問題を特定し、その問題を解決するための情報システムを提案します。お客様は、情報システムに対価を払うのではなく、情報システムが解決してくれる、経営や業務の問題解決に対して対価を払うことになります。
ただ、間違えてはならないのは、商品自体をソリューションと呼び、それを売る営業をソリューション営業と言ってしまうことです。ソリューションは問題(課題)解決するコトであり、商品自体ではない点を注意しなければなりません。
また、ソリューション営業を実施するためには、お客様の問題を特定するスキルや、問題を解決に導くためにどのような情報システムが適切なのかを選択(或いは構築)するスキルが必要になります。ソリューション営業を実現するためには、営業担当者のスキルを高める必要があり、スキルを高めることによって営業の付加価値が高まることになります。
また、営業担当者にどのようなスキルを付けさせて、どのように教育していくかも力量のひとつになっていくことだと考えています。
あるクライアントでは、営業担当者の品質を営業の行動、スキル、資質で定義し、営業担当者に必要な能力要件のスコープを明確にしたうえで、不足しているスキルの強化のための教育に取り組んでいます。そうした取り組みが、本来的な意味でのソリューション営業ができる人材を育てることにつながると、私は考えています。
ソリューション営業を実現するために必要な営業担当者の能力
ソリューション営業を実現するために必要な営業担当者の能力には、大きく4つの要素があると考えています。
営業担当者が成果(ここでは売上を向上させることと定義)をあげるためには
- 市場環境
- 商品特性
- マネジメント環境
- 営業活動の仕方
- 保有スキル
- 時間の使い方
- モチベーション
などの要因が上げられます。
これらの要素の掛け算によって成果が定義されると考えると、営業担当者の能力に影響する要素は、営業活動の仕方、保有スキル、時間の使い方、モチベーションの4つになります。
営業の成果 =
市場環境 × 商品特性 × マネジメント環境 × 営業活動の仕方
× 保有スキル × 時間の使い方 × モチベーション
4要素は営業担当者の能力開発やモチベーションコントロールによって、向上させることができます。
それぞれの要素についてもう少し詳しく見ていきましょう。
1.営業活動(プロセス)に関する要素
営業プロセスとはソリューション営業において、業績という成果を上げるための主要な営業活動のステップです。例えば、訪問計画を立てたり、お客様とコミュニケーションをとったり、提案をしたり、契約を締結したりする活動をさします
2.スキルに関する要素
スキルとは営業プロセスを効果的に進めるために、営業担当者が保有すべき知識や技術です。例えば、お客様からニーズを引き出すためのヒアリングスキルや、お客様と使用や価格の交渉をするための交渉スキルなどがあげられます。
3.時間の使い方に関する要素
営業の時間の使い方には大きく分けて2つの要素があります。
一つ目は、お客様のために使う時間です。例えば、お客様との面談時間や移動、訪問準備などがあげられます。
二つ目は、お客様のために使わない時間です。例えば、会議や事務処理などです。
4.モチベーション要素
モチベーション要素には、大きく2つの要素があります。一つ目は、仕事の動機付けに関する要素です。例えば、仕事の内容、競争と達成感、評価などがあげられます。二つ目は、仕事をする環境や状況に関する要素です。例えば、上司の管理、職場の環境、報酬などがあります。
今回お話した4つの要素は営業担当者の行動に影響を与え、結果として営業の成果を左右することになります。つまり、個人として営業の成果を上げるためには、これら4つの要素をしっかりコントロールすることが重要です。
是非、4つの要素について理解を深め、自己のソリューション営業力の強化を進めてください。