建設経営への道標【483号】
2018年5月23日
原価管理に関するルール・基準の明確化 第2回
建設業において原価管理手法として適用されている実行予算制度・管理が形骸化しているということは大きな問題であると考えます。その原因として、①原価管理における役割分担が曖昧である。②工事担当者の原価意識が薄い。③原価管理に関する目標設定が曖昧である。④実行予算作成のタイミングが遅い。⑤実行予算作成に関するルール・基準が曖昧である。といったことが挙げられます。
この形骸化している現象を打破しない限り、原価管理の本質を見出すことは難しいでしょう。建設業が、本質的に考え、実行しなければならない原価管理のあり方を考えてみます。
原価管理意識の向上
(1)金額ベースで原価管理するドンブリ勘定
建設業の原価管理の手段である実行予算の作成と、その管理を実践しているのは工事担当者ですが、筆者はこの工事担当者の原価管理に対する意識、さらにコストダウンヘの取組み意欲が極めて希薄だと感じる場面によく出合います。
工事担当者が施工管理において検討する要素として、「品質・工程・安全・原価」といった4つのことが考えられているわけですが、工事担当者に「この4つの中で何を一番重要と考えているか」という問いに対して返ってくる答えは、「品質第1」と答える者と「安全第1」と答える者が大部分で、その次に来るのが工程管理となります。
「原価管理を第1にして、現場を運営している」と回答してくる者は、ほとんどいないというのが状況です。このことは、工事担当者は技術者として機能しているけれども、決して経営者の代理人としては機能していない、ということを現しています。
工事担当者の原価管理意識が希薄になっている原因として、建設業の原価管理における2つのドンブリ勘定があるように考えられます。1つのドンブリ勘定は、工事単位の原価管理(実行予算管理)を金額ベースで実施しているというドンブリです。金額というのは、どちらかというと結果としての数値であり、この金額は単価と数量を内訳として成り立っていますから、原価管理の重点を単価と数量におくべきです。
この場合の数量というのは、施工数量ではなく材料・労務・経費などに関する歩掛としての数量です。この場合にそれぞれの数値の責任所存を明確にすることが重要で、「あるべき晏」としては、単価は購買部門、数量(歩掛)は工事部門、金額は経理部門にそれぞれ管理責任を持たせることが考えられます。
単価における原価管理というのは、例えば基礎型枠という工種に1㎡当りの単価を2,200円と捉らえた時に、この単価がその時において最低であるかどうかを誰にも決められるものではありません。以下のように複数の業者から見積をとって、初めて2,200円という単価の妥当性が判断できるわけです。
- A業者:2,300円⇒2,200円に比べれば高い
- B業者:2,100円⇒2,200円に比べれば安い
業者Bの2,100円が最低かといえば、必ずしもそうではなく、他の業者から別途見積をとることによって、あるいは業者との価格折衝を工夫することによって2,100円以下の単価で発注することが可能になり、単価におけるコストダウンにおいて限りがないという判断が可能になります。コストダウンを考える場合に、2,100円という単価そのものではなく、基礎型枠に関する歩掛を考慮することによって2,100円という単価をさらに下げることが可能になります。その例を示すと、次のように考えられます。
【例】基礎型枠:2,100円/㎡に関して標準的歩掛(生産性)を1人当り15㎡とすると
- 型枠大工の歩掛(生産性)が1人当り13㎡である場合には、1日当りの作業量が標準的歩掛の場合よりも少なくなるわけですから、2,100円/㎡という単価は高すぎる計算になります。
- 型枠大工の歩掛(生産性)が1人当り17㎡である場合には、1口当りの作業量が標準的歩掛の場合より多くなるわけですから、2,100円/㎡という単価がより安いという計算になります。
以上のような事例でいえることは、単価そのものだけで絶対的に安いという判断には無理があり、その工種に関する歩掛、言い方を換えれば、その工事に関わる職人の作業量を考慮して原価の良し悪しを判断する必要があるということです。すなわちコストダウンを考えるためには、原価を単価と数量(歩掛)の両面で捉えながら、対応することが重要であるということです。
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